ガラ紡とは、明治時代初期に信州安曇野出身の僧、臥雲辰致(がうんたっち/ときむね/たつむね)氏によって発明された、和製の紡績機「臥雲式紡績機」で作られる糸のことです。
機械がガラガラと音を立てながら動くことから、「ガラ紡」と呼ばれるようになりました。
手紡ぎ糸のような素朴で温かみのある風合いを機械で再現できる、非常に希少な製法です。
ガラ紡機は、昭和の初期には日本各地で広く使用されていましたが、効率重視の西洋式紡績機の普及により、次第に姿を消していきました。
その背景には、ガラ紡が非常に時間のかかる製法であること、短い繊維しか紡げなかったことが挙げられます。
戦後の日本では、物資が不足していたこともあり、落ち綿や再利用された繊維を使ってガラ紡機で糸を紡ぐという使われ方が主流でした。
これは、現代でいうところの「アップサイクル」や「リユース」に通じる考え方です。
益久染織研究所が所有するガラ紡機は、中国山東省の自社工場にあります。
これは、第二次世界大戦中に日本が満州で産業を構築する際に現地に持ち込んだ機械が、長年の時を経てたどり着いたものです。
偶然ともいえるこの出会いが、益久のガラ紡づくりを支えています。
平成以降、ガラ紡機は技術的な改良が加えられ、短繊維だけでなく、繊維長の長い綿も紡げるようになりました。
これにより、自然栽培綿などの上質な素材を使って、さらに風合い豊かな糸を作ることが可能になりました。
さらに益久染織研究所のガラ紡機は、極細の糸から太番手の糸まで、幅広く対応できるように独自の調整を施し改良されています。
農薬を一切使用していない綿花を自社で栽培し、それを使ってガラ紡機で糸を紡いでいます。
これは手つむぎ糸と同じ素材を、機械で丁寧に仕上げるという手法であり、まさに「機械による職人仕事」といえるでしょう。
ガラ紡の大きな魅力は、その製法の「ゆっくりさ」にあります。
時間をかけて、綿に余計な負荷をかけずに糸を紡ぐことで、手紡ぎに限りなく近い、柔らかくナチュラルな風合いの糸が生まれます。
※「1錘(いっすい)」とは、ガラ紡機に取り付けられた糸を巻き取るための回転軸のことで、1台の機械に複数の錘(スピンドル)が備えられています。
つまり、1錘あたり40gであっても、複数の錘を同時に稼働させることで、合計の生産量を増やすことができます。
一つ一つの生産量は少なく見えるかもしれませんが、ガラ紡機は複数稼働させることで、全体としては安定した生産量を確保することができます。
とはいえ現代の紡績機と比べると、ガラ紡機のスピードは約100分の1と非常に遅く、短時間で大量の糸を生産することはできません。
しかしその分、手仕事に近い温かみと柔らかい風合いを持つ糸を紡ぐことができ、使うほどに味わいの増すナチュラルな製品が生まれるのです。
益久染織研究所では、ガラ紡の糸を使用したタオルや寝具、衣類などの製品を展開しています。
自然素材ならではの心地よさと、環境にも優しいサステナブルな製法にこだわった商品は、長くご愛用いただける逸品です。
ガラ紡は、日本の伝統技術とサステナブルな精神が融合した、現代にこそ見直されるべき製法です。
手紡ぎに近い風合い、素材へのやさしさ、そして歴史的背景。すべてが詰まったこの技術を、ぜひ多くの方に知っていただきたいと私たちは考えています。
ガラ紡糸の商品はこちら → ガラ紡の商品一覧ページへ